生活習慣病外来で薬の質問のうち最も多いのがこの降圧薬についてです。
答えは「生活習慣を改善すれば服薬を中止することができる」。
すると患者さんの中には、
「体重が5kg減ったのにやめられない」
「禁煙したのにやめられない」
「塩味薄めにしてるのにやめられない」
と反論される方が少なからずおられます。
どうしたらよいのでしょうか?
作家で精神科医の樺沢紫苑氏は、「やれることは全部やる」という最強の成功法則「全部戦略」を提唱されています。
この「全部戦略」を高血圧治療に応用すると・・・
健康診断で高血圧を指摘された43歳営業職のAさん。
身長170cm、体重83kg、睡眠時間6時間、喫煙1日10本。
朝食はごはん、味噌汁、納豆と目玉焼き、昼食はラーメン・蕎麦などの麺類か丼もの、夕食は晩酌ビール2本、野菜や果物はあまり食べない。
車移動が殆どで1日歩行数は2000歩程度。
職場の健康診断で高血圧を指摘された。
家庭血圧を測定すると、収縮期血圧は140超え!
あわててY内科クリニックを受診した。
するとクリニックの医師YはAさんに次のような「全部戦略」を指示した。
生活習慣改善の戦略 | 低下する血圧 収縮期/拡張期 mmHg |
---|---|
1 減塩 | 1日の食塩摂取を2g減らせば血圧 2/1mmHg低下! |
2 野菜・果物の摂取 | 1日野菜350gと果物摂取で血圧 4/2mmHg低下! |
3 減量 | 体重1kgの減量で血圧 1/1mmHg低下! |
4 有酸素運動 | 早歩き1日30分で血圧4/3mmHg低下! |
5 節酒 | ビール中1本(酒1合)以下にすれば血圧 3/2mmHg低下! |
6 その他避けたほうがよいもの | タバコ、ストレス、睡眠不足、寒冷、便秘 |
するとAさんは、
味噌汁はやめ、ラーメンのスープを残すようにした(減塩4g):血圧-4mmHg
野菜や果物を毎食2皿づつ食べるようにした:血圧-4mmHg
体重を5kg減量した:血圧-5mmHg
毎日30分のウォーキングを始めた:血圧-4mmHg
晩酌のビールを1本減らした:血圧-3mmHg
これでめでたく血圧はトータル20mg低下して、収縮期血圧120以下に。
加えて、禁煙する、睡眠時間を1時間増やす、ストレスをその日のうちに発散するように心がければ、さらに低下するでしょう。
これが血圧治療の生活習慣改善のための「全部戦略」です。
私自身も経験済みなのですが(ブログ:「【医者の不養生日記】酒をやめたらこうなりました・・・https://www.yoshino-naika.com/blog/85520/)、薬を飲んでいる方でも降圧しやめることも期待できます。
高血圧外来で多い誤解の一つは、「頭痛がするのは血圧が高いせいである」というもの。
脳卒中の場合は別として、血圧が高いから頭痛がするのではなく、頭痛がする(頭痛というストレスのため)から血圧が上がることがほとんどです。
高血圧症には基本的に自覚症状はありません。
ではなぜ治療するかといえば、上のグラフが示すように、血圧が高いほど心筋梗塞や脳梗塞の死亡リスクは上昇するためです。
高血圧は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれるゆえんです。
1 たばこ | たばこの規制に関する世界保健機関 枠組条約履行を推進 |
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2 食塩 | 食塩の消費を抑制するためのマスメディア・ キャンペーンと食品企業による自発的な活動 |
3 肥満、不健康な食事、運動不足 | マスメディア・キャンペーン、食品への課税、 助成金、表示、販売活動の制限 |
4 有害飲酒 | 増税、広告禁止、入手制限 |
5 心血管系疾患のリスク低下 | 生活習慣病高リスク者への 複数種類の薬剤利用 |
2011年9月、国際連合は生活習慣病予防を専門とする学識者を招いて会議を行い、「生活習慣病対策のために世界全体がとるべき5つのアクション」(上表)を発表しました。
ご覧になってどのような感想を抱かれたでしょうか?
タバコが1番に記載されるのは納得ですね。
3番めに肥満、不健康な食事、運動不足が一括りにされている一方、その上に単独で食塩が挙げられているのは意外であると同時に、それだけ事の重要さが伝わってきます。
これら5つの項目は糖尿病にも関係がありますが、世界では高血圧の問題が生活習慣病において喫緊の課題であることを示しているのではないでしょうか?
そして生活習慣病に関する国際連合学識者会議は、個人の努力のみならず、世界中の国を揚げて1から4を実行して生活習慣を改善しなさい、それでも改善できなければ5薬剤を利用しなさいと提言しています。