加齢により誰でも血圧は上昇するもの。
そう思っているあなたに、この人たちをご紹介しましょう。
ブラジルとベネズエラの国境近くに住むヤノマミ族のみなさんです。
彼らに会うためには、ジャングルの中を8時間歩いて集落に向かわねばなりません。
狩猟と焼畑農業中心の生活をし、栽培した穀物、採取した果物・昆虫などを食べて生活しています。
主食はバナナ、キャッサバ。
食塩や砂糖などの精製された調味料は使わず、アルコールや牛乳などの乳製品も摂取していません。
ブラジルの研究グループは、3つの集落に暮すヤノマミ族20~59歳の195人について血圧について調査しました。
すると次のような数値で、しかも年齢による血圧の上昇は認められませんでした。
収縮期血圧 平均値 96.0 mmHg (78.0~128.0mmHg)
拡張期血圧 平均値60.6mmHg(37.0~86.0mmHg)
また畜尿検査も同時に実施されており、尿中に排泄されたナトリウムから推定すると、塩はほとんど摂取していない(1日0.1g以下)ことも裏付けられました。
アマゾンの先住民ではないので塩と血圧の例は、自分には当てはまらないと考える人も多いでしょう。
そのような方に、世界32か国から食塩摂取量の異なる52の地域に住む約1万人を対象とした、食塩摂取量(≒尿中ナトリウム排泄量から換算)と血圧測定値の関係を調査した研究をご紹介しましょう。
この研究では、それぞれの地域で、男女100人ずつ、それぞれ20歳代から50歳代まで25人ずつ測定しました。
このような方法で血圧を測定すると、加齢に伴う血圧の上昇を知ることができます。
下のグラフを御覧ください。
縦軸に年齢が1歳上がるごとの収縮期血圧の上昇量、横軸に24時間の尿から推定した1日あたりの食塩摂取量gを示しました。
グラフの直線の傾きから、1日あたり1gの塩分摂取で1歳年をとると血圧が0.058mmHg上がる計算になります。
仮に30歳で収縮期血圧116mmHgの人が1日14gの食塩を摂取しているとすると、30年後60歳の血圧は、
116+0.058✕14✕30≒140mmHg
と、立派な(?)高血圧になってしまいますね。
もし1日7gの塩分制限にすると30年後は、
116+0.058✕7✕30≒128mmHg
に留まります。
言い換えると、1日に7gの塩分制限を続けていれば、140mmHgの血圧に到達するのは90歳のときだということです。
つまり30歳から1日14g食塩を摂取した60歳は、30歳から1日7g食塩摂取した90歳と同じ血管年齢!
実際は食塩非感受性という、食塩を摂取しても高血圧になりにくい遺伝子を持つ人がいます。
このため上図の直線計算式がすべての人に当てはまるわけではありません。
しかし、逆の見方をすれば、食塩非感受性以外の人々の食塩摂取による血圧上昇量はもっと大きいと理解すべきでしょう。
1日の塩分摂取量は、日本高血圧学会では6g未満、世界保健機関(WHO)では5g未満を目標としている理由をご理解いただけたでしょうか?
以上減塩と血圧との関係を、世界の疫学研究結果をもとに考察してみました。
血圧は年をとってから急に上がるものではなく、30歳を過ぎる頃から徐々に上がっていきます。
長年に渡る塩分過多が、血圧の上昇に大きな影響を及ぼしているのです。
1日に食塩を何グラム摂取したかと考えるよりも、生まれてから今までに何キログラム食べたか、これから何キログラム食べるかというマクロの視点が大切になります。
食塩1日10g摂取すると、1年で3.5kg、30年で105kgにも及ぶことを認識しましょう。
脳卒中や心疾患、腎臓病の要因となる高血圧は、がんとは異なり自己管理できる点で治ることを実感できる疾患でもあるのです。
今日の“飽食時代の高血圧”を、肥満解消とともに減塩によって克服しましょう。
減塩にすれば食べる量も減るのでダイエットにも効果的、一石二鳥ですね。