防風通聖散
防已黄耆湯
大柴胡湯
この3つは肥満症の治療に用いられる漢方薬です。
では肥満を漢方薬で治したい人は、どの薬を選択するのがベストでしょうか?
漢方薬は間違った使い方をすると効果がないばかりか、副作用に悩まされてしまいます。
正しく選択するためのポイントを解説します。
肥満症とはBMIが25以上で、肥満による11の健康障害のうち1つ以上ある場合です。
肥満の人は、どれか一つは当てはまりそうですね。
病院で肥満症と診断された場合は、健康保険を利用して医師より漢方薬を処方してもらうことができます。
「ダイエット漢方薬といえばコレ」というほど有名です。
防風通聖散は、18の生薬が配合され、互いの成分が巧みに影響を及ぼし、次の2つの効果を発揮します。
1.発散できず体内にこもった熱(エネルギー)の放出。
2.溜め込んだ余分なものを体から排泄。
この2つの効果によりダイエット効果が期待されます。
ただし、漢方薬は服用する人と薬との相性が非常に大切です。
具体的には、
① 体力があってガッチリとした体型
② へそを中心に皮下脂肪で膨満して、お腹に力がある太鼓腹の方
③ 便秘のある方
この3つが当てはまる場合に効果を発揮します。
次に、気になる体重減少効果についての、研究結果をご紹介します。
BMIが36.5の人を、食事運動療法だけを行ったグループと、食事運動療法に防風通聖散を服用したグループの2つに分けて比較すると、6ヶ月で前者が6.5kg、後者が10kgの体重が減少しました。
この結果から10kgと6.5kgの差、3.5kgが防風通聖散による体重減少効果であると解釈できます。
では、なぜこのような体重減少効果が認められたのでしょうか?
その答えとなりうる、動物実験の研究結果が、報告されています。(横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科グループ)
それによると、防風通聖散により
① 白色脂肪細胞の小型化により内臓脂肪量が減少
② 食欲増進ホルモンとして注目されている、グレリンの血液中の濃度が低下して食事量が減少
ヒトではまだ明らかではありませんが、防風通聖散の作用を示唆する結果でした。
防風通聖散の服用に際しては、注意しなければならない副作用もあります。
最も気をつけることはお通じです。
防風通聖散は便秘症の効能を持つお薬でもあります。
軟便から下痢気味の方は、服用しないでください。
大黄が含まれているため、下痢の症状が助長されてしまいます。
また、普通便の方が、糖尿病治療薬GLP-1のリベルサスや食欲抑制薬サノレックスを服用して便秘になった場合に、併用するのも良い使用方法です。
この2つのおくすりには、体重減少効果がありますので、防風通聖散と併用することで、相乗効果が期待できます。
防風通聖散は、下痢の他に肝機能異常をきたすことも。
服用中に全身倦怠感、食欲低下、はきけなどの症状が出現したら、服用を中止して最寄りの医療機関を受診しましょう。
なお、 妊娠中や授乳中の女性は、服用を控えてください。
効果を正しく引き出すためには、1か月程度服用し、問題がなければ継続して服用を行うことが推奨されています。
服用に際しては、各人に合った分量を服用することが鍵になります。
かかりつけ医と、よく相談して容量用法を決めましょう。
「防風通聖散は、私には合わないかも?」
このような方は「防已黄耆湯」が向いている場合があります。
防已黄耆湯はその名の通り、防已と黄耆を主成分として6種類の生薬から成り立ち、2つの効果を発揮します。
1.防已を中心に体の水分のめぐりを改善
2.黄耆を中心に体の余分な水分を調節
具体的に、どんなタイプの人に合うかというと、
1.体力が中等度以下の方
2.柔らかい感じの水太りで、下半身にも脂肪がつきやすい方
3.便秘でない方
この3つが揃っている人に相性がピッタリ!
つまり体力がなく、便秘でもない、ぷよぷよした水太りで下半身にも脂肪が多いタイプです。
3つめは、大柴胡湯です。
大柴胡湯には特徴的なことが1つ!
それは、ストレスを受けて、太りやすい人に用いられる、という点です。
漢方には肝心脾肺腎と言う概念と、気血水の概念があります。
この大柴胡湯は肝、つまり自律神経・精神的ストレスを緩和する働きと、気、つまり気持ちの高ぶりを癒やす働きがあると言われています。
このためストレスから来る肥満の人に相性がよいとされています。
その他は、
1.体力が充実したガッチリした体格
2.固太り・筋肉質の方、二の腕や脇腹などの上半身に脂肪が多い方
3.便秘傾向の方
この3つがそろう方に相性が良いお薬です。
ドラッグストアなどでは、更年期障害を伴う女性の肥満を、訴求している事が多いですが、実は、男性にも適するお薬です。
次に大柴胡湯の副作用についてです。
大柴胡湯は、便秘のお薬でもあるため、便秘がない方が服用すると下痢をすることも。
ただし、防風通聖散ほどの便通を改善する効果はありません。
また、服用中まれに、
全身倦怠感、食欲低下、はきけなどの肝機能障害の症状
発熱、から咳、息切れ、呼吸困難などの間質性肺炎の症状
を来す場合があります。
このような症状があらわれたら、ただちに服用を中止して、医療機関を受診しましょう。
大柴胡湯に限らず、漢方薬を服用中は、病院で定期的に診察・血液検査を受けることで、異常が生じたとしても、早期に発見することが可能になります。
以上、健康保険で肥満治療ができる3つの漢方薬をご紹介しました。
最後になりますが、肥満治療において、最も大切なことは、適度な運動とバランスの良い食事、そして十分な睡眠です。
このような生活習慣を土台にして、漢方薬を賢く利用して減量しましょう。