メタボの3文字は、誰しもが知る言葉として日常生活に定着しています。
会話から聞こえてくるその意味は、肥満の同義語として使われていることがほとんどでしょう。
しかし実際は、上表の診断基準が示すように、メタボ=肥満ではなく、メタボ=内臓脂肪が多い状態を表します。
ひとの内臓脂肪の量を実測することはできないため、腹囲を計測することで代用しているのです。
腹囲の基準が男女で異なるのは、女性の方が皮下脂肪がつきやすいため基準が5cmゆるくなっています。
一見肥満に見えないひとやBMI25未満のひとでも、内臓脂肪が多くメタボであることがあり、特に中年男性でこの減少が多く見られます。
見た目はやせているひとでも要注意なのです。
女性では、更年期以降に内臓脂肪がつきやすくなりますが、原因として女性ホルモン量の変化が挙げられます。
内臓脂肪より皮下脂肪をつきやすくする作用がある女性ホルモンは、更年期以降激減するために内臓脂肪型肥満が増加していくと考えられています。
ではなぜ内臓脂肪が増えることは悪なのでしょうか?
ここで内臓脂肪についておさらいしましょう。
内臓脂肪には2つの役割があります。
一つは、飢餓に備えて食料が豊富な時に中性脂肪としてエネルギーを貯蔵する役割。
もう一つは、アディポカインと呼ばれる生理活性物質を作り出してからだの働きを調節する役割。
アディポカインはコレステロールと同様に善玉と悪玉に分かれていますが、エネルギー摂取と消費のバランスがとれていると、それぞれの役割において適切に働き、からだの調子が整います。
エネルギー摂取が過剰になると、脂肪細胞は中性脂肪を過剰にため込みひとつひとつが肥大化します。
肥大化した脂肪細胞から産生されるアディポカインはそのバランスを失い、血管が収縮(血圧上昇)、血糖が上昇(糖尿病)、血が固まりやすくなること(心筋梗塞、脳梗塞)により様々な病気のもととなります。
内蔵脂肪細胞が肥大化してもなおエネルギー過剰状態が続くと、やがて細胞の分化が障害されるようになります。
すると脂肪細胞は定められた場所で増殖する分化ではなく、通常では存在しないところに、すなわち異所性(肝臓、筋肉、心臓など)に増殖していく作戦をとります。
肝臓に脂肪細胞がたまった場合は脂肪肝と呼ばれて、一部は肝硬変、そして肝癌へと進行してしまいます。
(詳しくは本ブログ「生活習慣病としての肝疾患」を参照してください。)
筋肉に脂肪細胞がたまった場合は脂肪筋と呼ばれます。
筋肉は、インスリンという膵臓から分泌されるホルモンの働きを借りて、血液中のブドウ糖(血糖)を取り込んでエネルギー源として消費したり、グリコーゲンのかたちに変換してエネルギーとして貯蔵しています。
ところが筋肉に脂肪が沈着すると、インスリンの作用が障害されて、ブドウ糖の取り込みができなくなり、血糖値が下がりにくくなります。
これはインスリン抵抗性と名付けられたメカニズムで、2型糖尿病の病因のひとつです。
このようにメタボリックシンドロームとは、内臓脂肪が過剰に増加することによって、様々な生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常、動脈硬化性疾患、肝疾患)が発症しやすくなっている状態のことなのです。
よく「氷山の一角」という言葉に例えられますが、まさに内臓脂肪はその「氷山」であり、生活習慣病一つ一つがその「一角」なのです。
「海面下」に潜んでいる内臓脂肪を「氷解」することによって、生活習慣病という「氷の山」をすべてなくすことが可能となります。