冬の間、長袖を半袖ポロシャツにかえてウォーキングができる季節を、私はいつも心待ちにしています。
半袖は通り過ぎる風を素肌で感じることができて、とても心地よいからです。
このころになると毎年決まって現れるのは、空を泳ぐ鯉のぼりとこんな患者さんです。
そして毎年こんなやり取りが私の外来で繰り返されます。
「今年の夏までに何としてもやせたいのです」
「夏に何かあるのですか?」
「はい、プール当番があるんです」
「プール当番?」
「はい、プール当番で、水着を着なきゃいけないんです」
「はぁ、それでやせたいのですね、で、何キロになりたいのですか?」
「55kgです」
「・・・、夏まであと3ヶ月、今70kg・・・」
以前ダイエットしたとき、もっとやせた。
だんだんダイエットしてもやせにくくなった。
どのようなダイエットをしていたか尋ねると、こんな答えが返ってきます。
「一日中仕事で忙しく運動する時間なし、食事制限頑張った:朝食抜き、昼食はおにぎり1個、夕食はヨーグルトとナッツ10個」
「今日は運動を必死に頑張った、朝食野菜ジュースのみ、午前中トレーニングジムで2時間、昼食菓子パン、午後からジョギング(プール)1時間、夕食カップ麺とポテトチップ」
人類は誕生以後飢えに苦しみ続けた。
いつ食べ物にありつけるかも定かでない飢餓の中、手に入れた食料はすべて食べ尽くし、余剰な摂取エネルギーをすべて中性脂肪として蓄える大食漢だけが生きながらえる時代が30万年続いていたのです。
わたしたちはこの遺伝子(倹約遺伝子といいます)を受け継いでいるため、飽食の現代、肥満に苦しめられることになったのです。
短期間の急激な減量は飢餓状態と同じ。
飢餓状態に陥ると食欲が亢進し食べたものを身につけようとからだは反応する、リバウンドを止めることは決してできないのです。
リバウンドというのは、一種の生体防御反応なのです。
この防御反応を外せば、われわれは死に至ります。
その例となるのが拒食症です。
運動は、やり過ぎると太ります。
食事は、減らしすぎると太ります。
どちらもその反動で過食に走るからです。
それが生き延びるための生体防御反応だからです。
前述のようなダイエットを行ったひとは、減量してもすぐにリバウンドしてしまいます。
このような短期間に「体重」だけを見てつじつまを合わせるかのような方法がまん延しています。
短期間の急激な減量は、筋肉と一部の皮下脂肪が分解することで体重が減少するのです。
その反動の過食で増えるのは、筋肉ではなく内臓脂肪と異所性脂肪なのです。
つまり、急激なダイエットを繰り返すたびに、筋肉が内臓脂肪に置き換わり痩せにくい体質へと変貌してしまうということです!
これを「減量病」と名付けて、肥満症の病態を悪化させる根源となっていると述べているのは、大分医科大学名誉教授の坂田利家先生です。
一般に「ウエイトサイクリング」あるいは「体重のヨーヨー現象」と呼ばれているものは、この「減量病」に該当します。
減らしたいのは筋肉ではなく内臓脂肪と異所性脂肪。
そのために急な減量・過度の減量は厳に慎むべきです。
水着を着こなす準備は、1年前の夏から始めても早すぎることはありません。