狩猟採集時代の食事の中心になったのは木の実やイモの他、クリ、クルミ、ドングリ、ヤマイモ、マメといった堅果類でした。
基本料理は鍋料理で、肉や野菜、堅果類を一緒に煮て食べていたことが、出土した遺跡からわかっています。
堅果類という名前から容易に推察できるとおり、時間をかけゆっくりよく噛んで食べていたものと考えられます。
ゆっくりとよく噛んで食べるとどんな利点があるのでしょうか?
30人の健康な女性を対象に調べた研究では、ゆっくりよく噛んで食べた食事と早く食べた食事とで摂取カロリーを比較すると、平均579.0kcal対645.7kcalとなり、早食い群のほうが67kcalも多く摂取したにもかかわらず満腹感が少ない結果が明らかにされました(J Am Diet Assoc. 2008 ;108(7):1186)。
食べ物を口に入れ噛み砕くとき、歯の歯根膜や頬の咬筋から中脳にある咀嚼中枢に神経興奮が伝わって、「神経ヒスタミン」という物質が分泌されます。
この神経ヒスタミンが満腹中枢を興奮させ、食事を摂取することで増加するぶどう糖などの満腹を知らせる情報よりも早く、「おなかがいっぱいだぞ」という信号を送り込むので、食べすぎを抑えることができるのです。
その上よく噛むことは、内臓脂肪にとっても嬉しい影響を与えてくれます。
咀嚼が内臓脂肪に及ぼす影響を調べた坂田利家先生らの研究では、デンタルガムを噛まなかった群は内臓脂肪が8%増加したのに対し、10分間噛んだ群では8%減少しました。
噛むことで咀嚼中枢が興奮し神経ヒスタミンが量産されると、満腹中枢を介して交感神経の中枢が刺激され脂肪を燃焼するよう働きかけます。
内臓脂肪は皮下脂肪に比べて交感神経による脂肪分解が強いため、噛むことで内臓脂肪が減少するのです。
このように咀嚼は摂食量減少と内臓脂肪燃焼という二方向から、肥満予防・肥満解消効果を発揮します。
しかし、実際の食事でよく噛むことは、想像以上に難しい!
特に時間に追われる人、早食いの習慣がある人は、練習によってしっかり噛むことを習慣化する必要があります。
そのためには、意識して噛みごたえのある食品を摂取することです。
坂田利家先生は、ボウル法と名付けた次のような方法を推奨しています。
サラダボウル1杯の野菜、海藻、(きのこ)などの低(無)エネルギーで食物繊維に富んだ噛みごたえのあるものを10分間じっくり噛み、引き続き食事をしっかり噛んで食べるという方法です。
「内臓脂肪は夜たまる」という特徴があるため、夕食時に的を絞るといっそう効果的です。
食べ過ぎを気にする皆さん、今日から10分間実践してみてはいかがでしょうか。
冒頭の狩猟採集時代から時が下った弥生時代には、稲の栽培が本格的にはじまり、米をはじめとする穀物を主要な食料とする生活が始まりました。
各地の遺跡から出土する炭化穀物などより、米の他に、小麦、アワ、ヒエ、小豆などが栽培されていたと明らかにされています。
当時は現代のように精米機などはもちろん存在せず、これらの穀物を精製しないで食べていたため、噛む回数が何倍も多かったと考えられます。
邪馬台国の女王卑弥呼も、しっかりよく噛んで食べてその美貌を保っていたのでしょう。