2007年1月、ある日突然スーパーの食品売り場から納豆が消えた。
テレビ番組で納豆によるダイエットの効果が取り上げられ、それを見た人々が納豆の買占めに奔走したのだった。
そして再び2020年1月にも同様の事態が発生した。
「納豆1日1パック、死亡リスク10%減」と、国立がんセンター研究チームが報告したデータをメディアが報じたのである。
納豆が好物の私にとって、由々しき問題であった。
ココアや寒天でも過去に同様な事態が起きています。
なぜこのようなことがおきるのでしょうか。
ひとつにはテレビや新聞、雑誌などメディアの影響力の大きさを物語っているのですが、ここでは、このように反応する人々の考え方に論点を置きます。
作家ロルフ・ドベリは著書Think clearlyの中で、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンのフォーカシング・イリュージョン効果を引用したうえで次のように言っています。
「特定の要素だけに意識を集中させると、その要素が人生に与える影響を大きく見積もりすぎてしまう」
ダイエットために重要なことは、毎日の運動と十分な睡眠、甘いものや脂っこいものは控える、食べてすぐ寝ないなど多くのことがあり、「納豆を食べる」はそれらの生活習慣のなかのごく一部にすぎません。
(ここでは「納豆がダイエットに有効」についての議論は行わない。)
ダイエットは不健康を回避するために行うものとすれば、これらの生活習慣改善に加えて、喫煙、ストレス、コロナなどの感染症、交通事故、紫外線・気候・環境問題など多くのリスクを回避するよう努めなければなりません。
ドベリはまた、車を購入するときや、就職先を選ぶとき、夏休みをどこで過ごすかを決めるときなども同様で、広角レンズを通して物事を考える、特定の要素だけを過大評価しないよう十分な距離をおいて比べることを勧めています。
そうすればスーパーから納豆が消えることはないし、消えてもあわてることはないのです。
「朝バナナダイエット!」「バナナで楽やせ!」
相変わらずメディアから心地よいフレーズが飛び込んできます。
バナナに限らず、りんご、ヨーグルトなどの特定食品ばかり食べる単品ダイエットもまた、フォーカシング・イルージョンに陥ったダイエット法と言わざるを得ません。
単品で必要な栄養素を十分に備えた食品は存在せず、長く続けるとタンパク質、ビタミン、ミネラルの欠乏状態に陥ることがあるからです(下図参照)。
この栄養状態で運動をすると体の筋肉が減少してしまいます。
筋肉は腕やあし(骨格筋)だけでなく、胃・腸(平滑筋)、そして心臓(心筋)も構成しているのです。
かつて世界の医療現場で、このような栄養素が欠乏した食事療法が行われ、死亡者が続出したことがありました。
おそらく心臓を作っている筋肉も薄くなってしまったのでしょう。
こうした経緯で今日では、医学的に安全であることが証明されたフォーミュラ食が開発され、置き換えダイエットに利用されています。
「メディアは過大視本能につけ込むのが得意だ。ジャーナリストたちは、さまざまな事件、事実、数字を実際よりも重要であるかのように伝えたがる。」
スウェーデンの医師であり公衆衛生学者であった故ハンス・ロリングスは世界的ベストセラー「FUCTFULLNES」のなかでこのように言っています。
そして「過大視本能のせいで、多くの人が限られた時間や労力を無駄遣いしがちだ。」とも。
彼は過大視本能を抑えるには、比較したり、割り算したりして考えることが大切であると教えてくれています。
下図は1食あたりの必要栄養素量をもとに割り算して算出したものですが、比較図でもあります。
みなさんも今後メディアでバナナダイエットが紹介されても、スーパーの果物売り場に殺到して買い占めないでくださいね。
何故って、私は毎朝、納豆といっしょにバナナも食べるからです。