私のクリニックの肥満外来に受診する人の85%は、朝食を食べないと答えています。
とりわけBMI35以上の高度肥満の人は、ほぼ全員朝食をとっていません。
2014年国民栄養調査によると、20歳代の28.2%が朝食をとっていないという結果でした。
肥満者の朝食喫食率が、いかに低いかを物語っています。
食べない理由は、「食べたくない・お腹が空いていないから」、「食べる時間がないから」のどちらか、または両方です。
その原因は前日の生活習慣、「夕食が遅い」、「就寝時間が遅い」で、その理由は、「仕事で帰りが遅くなる」「家族の帰宅を待っているため」です。
「夕食が遅くなって夜食(活動時間を過ぎてから食べる食事)を食べると太る」
このことはみなさん何となく感じていると思いますが、それはなぜでしょうか?
1つ目の理由は「体脂肪を減らす効果的な生活ー鍵は成長ホルモン」で詳しくお話しました成長ホルモンの分泌低下が原因です。
成長ホルモンは、脂肪分解、筋肉合成、血糖上昇、疲労回復などの作用を持つホルモンです。
夕食が遅い人は食後の血糖が高い状態のまま寝ることになり、成長ホルモンは分泌が低下し脂肪が蓄積しやすくなるからです。
2つ目の理由は、1997年に埼玉医大生理学研究室で池田先生が発見した時計遺伝子Bmal1に関係しています。
このBmal1は脂肪細胞分化の一翼を担っていることが、日本大学榛葉教授により明らかにされました。
Bmal1は夜間を中心に発現し、脂肪(中性脂肪・コレステロールなど)蓄積にかかわっています。
このため夜間に食べると脂肪が消費されることなく効率よく蓄積されて、肥満になりやすいのです。
そして朝食を食べていなければ、夜食の量が増えてますます体重増加につながっていきます。
先日、映画「プラダを着た悪魔」をみました。
プラダを着た悪魔のようなファッション業界に絶大な力をもつファッション雑誌編集長(メリル・ストリープ)のもとで、アシスタントとして働くこととなった主人公(アン・ハサウェイ)。
地味で小太りでファッションセンスのない主人公が、プライベートの時間を削って夜遅くまで仕事をします。
オーバーワークにもかかわらずトレンドをおさえたファッションで洗練されながら、ダイエットも同時に行いつつ仕事をこなす主人公の物語です。
しかしこれは映画の中だからできることであって、このような環境の中では通常過食に走り、主人公のような美貌を維持し、理想の体型も手に入れて仕事をこなすのは実際には無理な話です。
「働き方改革をして断固定時に帰る」
「健康という土台の上に仕事がある」
このような意識は確かに必要です。
しかし個人の力では如何ともし難いところがあるのも事実です。
それでは夜遅くまで仕事をして夕食が遅くなる現実を、どのように対処したら良いのでしょうか?
現実的な方法として可能な限り分食をお勧めします。
具体的には帰宅後の夕食より数時間早い時間に、少し食べておくということです。
そうすれば、仕事が終わった後に食べるとき、空腹感が軽減されて過食が防げますし、血糖値の上昇も穏やかになります。
何よりも体内時計の後退が弱くなって、翌朝への影響が緩和されます。
家族の帰宅を待って食事をする方も同様な対応、つまり主食・主菜は早めに食べておき、家族とともにサラダやデザートだけ食べるなどの方法がよいでしょう。
そうすることによって、夜間熟睡、成長ホルモン分泌、脂肪の蓄積回避という好ましいサイクルが回り始めます。