肥満外来に受診する人の生活習慣で特に目立つのは、朝食を食べないことと並んで、睡眠時間が短いことです。
調べたところ80%以上もの人が6時間以下の睡眠でした。
2005年に米コロンビア大学が8000人を対象とした調査でも、平均7〜9時間の睡眠時間の人に比べて、5時間睡眠の人は肥満率が50%も高いことが示されました。
感覚的には、寝ないで起きていたほうがエネルギーを多く消費して痩せやすいような印象です。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか?
これには食欲をコントロールするふたつのホルモンが関係しています。
ひとつは脂肪細胞から分泌される食欲を抑制するホルモンのレプチン、もう一つは胃の壁から分泌される食欲を増進するホルモンのグレリンです。
睡眠時間が短くなることは起きている時間が長くなるということなので、脳は「エネルギーが必要」と判断してグレリンを分泌させて食欲を増します。
一方食欲を抑える必要はないので、レプチンは「不要」と判断されて減少します。
この2つのホルモンの働きによって私たちに食べ物を食べるよう促し、長くなった活動時間に必要なエネルギーを確保しようとするのです。
このため知らず知らずのうちに食べすぎてしまいます。
さらにレプチンにはエネルギーを消費する働きがあります。
これを代謝といいます。
十分に睡眠を取ってレプチンが分泌されると、代謝が良くなり運動しなくても多くのエネルギーを消費するようになります。
つまり太りにくい体質になります。
要するに、睡眠不足はレプチンとグレリンを介して、過食になりさらに太りやすい体質になるということです。
是非7時間の睡眠時間を確保したいものです。
そしてもう一つ大切なことは寝る時間帯、食べる時間帯です。
不規則な生活をして本来寝ている時間に寝ないで食べると、生体時計の点から太りやすくなります。
これには前回お話した時計遺伝子Bmal1の働きが関与しているからです。
Bmal1にはからだの概日リズムの司令塔という役割の他に、脂肪をため込む働きがあります。
この働きは22時から翌2時にかけてもっとも活性化して、日中の最大20倍も働いています。
つまりこの時間に特に脂質や炭水化物(代謝されて脂質に変わりやすい)を食べると、もっとも脂肪が蓄積しやすくなるのです。
当然この時間帯に食べているということは睡眠時間が短くなり、深い眠りも妨げられ、さらに成長ホルモン不足をきたすという、二重三重に悪影響を及ぼしているのです。
ではどのように生活するのが望ましいのでしょうか?
大切なことは「22時までに食べ物の消化吸収を済ませておく」ことです。
逆算すると、その3時間前の18から19時ころが夕食時間の理想ということになります。
このような理由から、夕食後の間食は太るということを理解していただけるのではないでしょうか。