なぜ動物性脂肪にはまってしまいやすいのか?

食欲を調節する2つの脳

今回は脳が動物性脂肪にハッキングされる理由に迫ってみます。

そのためにまず、私たちの食欲を司る脳の働きを紐解いていきます。

「お腹が空いた、腹ペコだ!」

「お腹いっぱい、はち切れそう!」

長い人類の歴史の中で、ヒトは痩せすぎも太り過ぎも淘汰されて生き延びることが困難でした。

ちょうどよい生体恒常性を得ることが必要で、そのためには需要と供給つまりエネルギーバランスを保つことが大切になってきます。

空腹と満腹を制御する脳は視床下部弓状核というところにあり、摂食中枢・満腹中枢とも呼ばれます。

需要と供給つまりエネルギー収支を調節しているところです。

栄養摂取基準の優先順位は総カロリー、マクロ栄養素(炭水化物・脂質・炭水化物)、ビタミン・ミネラルの順と考えられています。

通常私たちの脳はこれらの栄養素のうち炭水化物に対する嗜好性を高め、脂質に対する嗜好性は低下させる方向に作用しています。

炭水化物嗜好性を制御するメカニズムは2つ知られています。

一つは単純糖質の摂取を脳に伝える経路と、もうひとつは絶食時の血中ケトン濃度の上昇に反応して起こる炭水化物嗜好性亢進の経路です。

ざっくりわかりやすく極論するとヒトの脳は、

① 甘いものが食べたい 

② 長時間絶食すると炭水化物が食べたい

このように感じさせるようにできているということです。

恒常性維持のため食欲を空腹と満腹で調節する脳の他に、もうひとつの脳が私たちに備わっています。

それは脳内報酬系と呼ばれるところです。

食べるという行動はただ空腹を満たすだけでなく、私たちに心地よい感情変化、すなわち快情動・・・幸福感をもたらしてくれますね。

食のもたらす快情動発生において中心的な役割を果たす報酬系の脳内回路は、ドーパミンという神経伝達物質が主役を演じています。

ドーパミンを産生する中脳ドーパミン神経細胞群は古くから快楽中枢として知られています。

では食において、ドーパミンはどのように作用しているのでしょうか?

動物実験の結果から考えてみましょう。

空腹状態のネズミは食物を摂取したときだけでなく、食物の到来を予測したときにドーパミンが放出されたのです。

一方、期待していた食物を獲得できなかった場合、ドーパミンの放出は抑制されました。

つまりドーパミンの上昇は「嬉しさ」のような快情動と、ドーパミンの減少は「がっかり」や「苦痛」のような不快情動と関連していることがわかります。

このように私たちは視床下部と脳内報酬系の2つが巧みに協力しあって食欲を制御して健康を維持しています。

脳が動物性脂肪にハッキングされる

ところが、習慣的に動物性脂肪を過剰摂取していると2つの中枢神経系に種々の悪影響を及ぼしてしまうのです。

その一例がレプチンの作用不全という現象です。

脂肪細胞から分泌される食欲低下ホルモンのレプチンは、視床下部に働いて食欲をコントロールしています。

体脂肪が減ると血中レプチン濃度が低下して摂食を促し、体脂肪が増えると血中レプチン濃度が上昇して食欲を低下させます。

このようにして痩せすぎないよう、太りすぎないよう体重を一定に保つよう機能しています。

しかし動物性脂肪を習慣的に摂りすぎていると、レプチン濃度が高くても視床下部でうまく作用しなくなるため、延々と食べすぎてしまいます。

そして恐ろしいことに、食欲の増強のみならず、動物性脂肪に対する嗜好性がいっそう亢進することが琉球大学益崎教授らの研究で明らかにされました。

その上、動物性脂肪の習慣的過剰摂取は、脳内報酬系ドーパミンを感知する力を低下させてしまうことも明らかにされました。

このような脳内報酬系の異常時には、からだを動かしたいという気持ち(運動欲求)まで著しく失せてしまいます。

つまり動物性脂肪によって脳がハッキングされて、食事による満足や歓びが享受できない脳に変わってしまうわけです。

こうして「ケーキは別腹」、「もっともっと」の病みつき状態に陥ってしまうことになるのです。

記事一覧を見る

powered by crayon(クレヨン)