古代ギリシア時代、医聖ヒポクラテス(紀元前460年頃~370年頃)が、運動は健康の維持増進に大変有用であることを解いています。
でもなぜ?
運動はただ単に筋肉が伸び縮みするだけではありません。
遺伝子制御、エネルギーを産生するミトコンドリアの生成、血管新生、炎症免疫応答にかかわっているのです。
これらは免疫代謝応答とよばれ、乱れると肥満、糖尿病、心血管病、がん、認知症、喘息などの病気につながっていきます。
運動はこの免疫応答失調の是正に大きく貢献していることが最近明らかにされました。
その主役は運動によって骨格筋や肝臓などから分泌される数多くの「エクサカイン(exerkine)」と呼ばれる生理活性物質です。
その最先端をゆく研究成果の一端をご紹介しましょう。
運動すると骨格筋からカテプシン-Bやアイリシンが分泌され、血液脳関門を通過し脳に作用してBDNFが増えます。
BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)は脳由来神経栄養因子といって、脳の神経細胞に作用し、成長を促し、新しい神経細胞を増やして脳のネットワークを強化します。
つまり、BDNFは頭を良くする!
運動により骨格筋から誘導される酵素のキヌレニン・トランスフェラーゼは、神経毒として作用するキヌレニンを解毒して、うつ症状を改善します。
さらにβ-アミノイソ酪酸は、加齢に伴う骨細胞の減少を抑制して運動能力の維持に!
一方骨格筋から分泌されるIL-6は骨芽細胞に作用して、オステオカルシン分泌を促します。
オステオカルシンは次のようにわたしたちの体へ多方面から働きかけます。
1.すい臓の働きを高めインスリンの合成・分泌を増やし糖尿病を改善・予防する。
2.神経細胞を活性化させ認知機能を改善する。
3.骨格筋を増やし、筋肉内のエネルギー効率を高める。
4.脂肪を燃焼させてエネルギーに変える体内のメカニズムを活性化させる。
5.男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促す。
そのほか運動は肝臓からも認知機能の向上や糖尿病の予防・改善するエクサカインが分泌されます。
今回は少し難しい話になって恐縮です。
ここで知っておいていただきたいことは、運動はただ食べ過ぎたカロリーを消費して太り過ぎを予防するにとどまらず、健康増進および脳機能向上に薬と同等以上の効果を示すことです。
「運動はマジック ピル(魔法の薬)」と言われる所以(ゆえん)です。