皆さんも一度ならず耳にしたことがある言葉と思います。
「でもどうして?」
と、尋ねても要領を得ない答えが返ってくるばかり。
本当にお酒を飲むと太りやすいのでしょうか?
医学的にこの真偽に迫ってみましょう。
まずはじめに、「適量の飲酒」について確認します。
厚生労働省が策定した健康日本21によると、「節度ある適度な飲酒」として目安量を1日平均純アルコールで約20gの飲酒と定めています。
様々なお酒についてそのアルコール含量は異なりますが、アルコール20gを含む容量は次のとおりです。
ビール 中びん1本(500ml)
日本酒 1合(180ml)
チューハイ アルコール度数7%のもの1缶(350ml)
ワイン グラス2杯(180ml)
焼酎 グラス1/2杯(90ml)
ウイスキー ダブル1杯(60ml)
次にビール中瓶1本(500m)1本を例に考えてみましょう。
ビール1本は約200kcalで茶碗に軽く1杯のご飯のカロリーに相当します。
200kcalのうち140kcalがビールに含まれるアルコールであるエタノールのカロリー、60kcalが旨味成分などに含まれるカロリーです。(以下エタノールをアルコールと記載します。)
からだの中でアルコール代謝がされる過程で熱が産生されるため、アルコールを摂取すると体温が上昇してからだがポカポカしてきますね。
このようにアルコールは、体内で代謝されて熱に変わるものの、からだの栄養素となるグルコース、脂肪酸およびアミノ酸に変換されることはありません。
つまりビールのアルコールは140kcalのカロリーを有しますが、からだの成分には変換されないので体重が増えることはないのです。
残りの旨味成分に含まれる60kcalだけが体重増加のもととなります。
ということはビール1本飲んで、ごはん小盛り半分にも満たないカロリーと同じ、1本では6枚切り食パン6枚切り半分に満たないカロリーと同じということになります。
このビール1本あたりの体重増加のもととなる60kcalは、はたして少ないのでしょうか、多いのでしょうか?
体脂肪組織1kgは約7200kcalですので、毎日ビール1本で1年で3kgの体重増加をもたらします。
ちりも積もれば山となるといったところですね。
さて、ここからが本題です。
では糖質がほぼ0カロリーの焼酎やウイスキーは太らないのでしょうか?
仮にビールや日本酒やワインの糖質などをカットしたら太らないのでしょうか?
この問いに答える前に摂取したアルコールの代謝についておさらいしてみましょう。
アルコールは肝臓でNAD+を利用して酢酸に分解され、さらに中性脂肪が作られていきます。
NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とは、ヒトの体内に存在する補酵素です。
補酵素は代謝をサポートしながら、生命維持に必要不可欠なエネルギーを作り出す大切な役割を果たします。
一方NAD+はNADHに変換されますが、これが過剰に産生されることによりTCAサイクルがうまく回らなくなります。
TCAサイクルはエネルギーを作り出す重要な代謝経路なので、障害されると細胞はエネルギー不足の状態に陥ります。
これは大変!とばかりに脳は「もっと炭水化物を食べろ」と命令を発します。
つまり、飲酒は絶食による飢餓状態に類似した代謝変化をひきおこすため、たくさんごちそうを食べたあとでも脳が空腹と錯覚してお茶漬けやラーメンのような炭水化物を渇望させるのです。
冒頭の「お酒を飲むと太る」というのは、こういったことが背景にあるのです。
とは言うもののお酒は、
Alcohol is a social lubricant.(酒は社会の潤滑油)
ワイン無しの食卓は花の咲かぬ畑の如し(イタリアのことわざ)
という言葉からもわかるように、人生を彩るために欠かせない存在です。
上手にお酒を味方につけて食事を楽しみたいものです。