「わたし肉や魚が嫌いなんです」
「朝は菓子パンとコーヒー、昼はコンビニのおにぎりかカップ麺」
肥満外来に訪れる患者さんがこのようにおっしゃるのは珍しくありません。
ではなぜ太る?
このような方の体重が増えていくのには、共通の理由があるのです。
それはタンパク質摂取比率が小さい食事をとっていることです。
人が健康に生きていくために、・タンパク質 ・炭水化物 ・脂肪 ・ナトリウム(塩) ・カルシウム を一定の必要量だけ摂取するように駆り立てる5つの食欲が存在します。
しかし今日の超加工食品のようなタンパク質とカルシウムが少ない食品が氾濫していると、どんなことがおきるのでしょうか?
人は一定のタンパク質量を摂取したいという潜在的な「タンパク質欲」のため、タンパク質の含有比率が少ない(超加工食品のような)食品を中心に摂取していると、一定量のタンパク質を得ようとしてつい食べすぎてしまう、、、カロリーオーバーになってしまうというわけです。
折しもタンパク摂取比率と体重の関係についてのこのブログを草稿中に、サンマーク出版から「食欲人」という本が刊行されました。
本にはこの問題が大変詳しく分かりやすく説明されていますので、いくつかをここで紹介させていただきます。
「食欲人」には次のようなバッタの研究が報告されています。
「(タンパク質含量の少ない)高炭水化物食を与えられたバッタは、(体が要求する量のタンパク質を摂取するために)延々と食べ続け、その結果として太った。
他方、(タンパク質含量の多い)低炭水化物食では、(タンパク質への欲求がすでに満たされたため)総摂取量が少なくエネルギー不足となった。
さらに、タンパク質と炭水化物の比率をさまざまに変えた餌を作りバッタに与えた。
すると、どんな組み合わせの餌を与えられようとも、バッタはまったく同じ比率でタンパク質と炭水化物を摂取した。」
このような現象は細菌から霊長類に至るまでみられるとのことです。
それでは私たち人ではどうでしょうか?
薬などと違って栄養学においては人道的な観点などから前向きの大規模研究を行うことが困難なのですが、人でも当てはまると考えられています。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年度版)によると、日本人のタンパク質摂取量は特に2000年代から下落が目立ち、近年では1950年と同等の水準にまで落ち込んでいます。
そのためタンパク質の1日あたり摂取目標量に対し、成人では1~2%(5~12g)程度下回る計算です。
たった、2%タンパク質が少ないだけの食事じゃないか!
こんな声も聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか?
ここでは「食欲人」に登場したアメリカ人女性 メアリーを日本人女性のA子として考えてみましょう。
「A子は身長160cm、体重64kg、BMIは25。
事務仕事と家庭を両立し、身体活動レベルは中程度。
1日に必要とするエネルギーは1880kcal、毎日これだけのエネルギーを摂取していれば体重は増えも減りもしない。
1880kcalのうちタンパク質から摂取すべき割合は15%で、282kcalになる。
タンパク質は1gあたり4kcalのエネルギーを含むから1日のうちに70.5gのタンパク質を摂れば良い。」
この量は「食品の重量」(g)ではなく、その「食品に含まれるたんぱく質の重量」(g)です。
したがって、例えば肉を70g食べれば良いということではありません。
部位にもよりますが、肉70gに含まれているたんぱく質はおよそ15gです。
つまり、70.5gのタンパク質とは、・赤身肉300g ・魚350g ・牛乳2L ・卵10個 ・ナッツ370g ・ごはん(1杯150g)18杯 ・6枚切り食パン13枚です。
さて、ここでA子が忙しくて食事もままならず、次のような食事から栄養をとっていたらどうなるでしょう?
おにぎり(さけ)192kcal タンパク質4.4g タンパク質比率9%
メロンパン 419kcal タンパク質9.6g タンパク質比率9%
カップ麺 357kcal タンパク質10.3g タンパク質比率11%
これらを主体とした食事ではタンパク質摂取比率は低下して、かりに1日13%とすると同じ15%のタンパク質70.5gを摂取するには2170kcal、つまり今の体重を維持のに必要な量より290kcal多く摂取することになります。
この290kcalは、加糖飲料2缶/チョコレートバー1本/ポテトチップス1袋に相当します。
これだけのカロリーでも毎日余分に食べ続ければ2年後の体重は12kg増えてしまい、A子もBMI30と肥満の仲間入り!
私が肥満外来で「朝食はごはんやパンだけでなく、タンパク質もしっかり摂ってくださいね」と患者さんにお話している理由の一つはここにあるのです。
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