「ほとんど炭水化物(糖質)を食べてません」
肥満外来に受診される患者さんの中には、このような「極端な糖質制限食」をしている方がいらっしゃいます。
とてもリスクを孕んだ食生活であると言わざるを得ません。
なぜならば低炭水化物食イコール高タンパク食・高脂肪食となるからです。
高タンパク食のリスクは糖質制限ダイエットの光と影ータンパク質中毒 https://www.yoshino-naika.com/blog/90328/)でお話しました。
高脂肪食のリスクについては別のブログでお話します。
しかし炭水化物を摂取しないリスクはそのふたつにとどまりません。
炭水化物そのものがとても重要な役割を担っているからです。
つまり脳や血液(血球)などの臓器にとって、唯一のエネルギー源としての役割をブドウ糖という炭水化物がはたたしているのです。
これらの臓器が1日あたり必要とするエネルギー量はブドウ糖100-150gといわれています。
ブドウ糖がない絶食下であっても、筋肉のタンパク質から分解して作られるアミノ酸や貯蔵グリコーゲンを材料にして肝臓がブドウ糖に作り変えて供給することは可能です。
しかしこれでは手元にある預金を切り崩して生活しているような危うい状況です。
最低限毎日食事から摂取すべき糖質量は、肝臓による糖産生に依存することなく脳に供給する量に安全率を加味した量である150g/日が推奨されるべきと考えます。
この糖質量はエネルギー量として600kcalに相当します。
600kcalの炭水化物量とは?
米1合(150g、炊飯後は340g約575kcal):約2膳分のご飯。
食パン8枚切り(45g)119kcal:約5枚(595kcal)。
この量が1日に最低限必要な炭水化物です。
糖質制限ダイエットに関心をお持ちの方は、この程度の炭水化物を最低限摂取した「ゆるやかな糖質制限」が望ましいでしょう。
ちなみに厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、必要エネルギーのうち最低50%を炭水化物から摂取するように設定されています。
この量は1日2400kcal必要な成人の場合、米2合(ご飯小盛4膳)、食パン8枚切り10枚に相当します。
「けっこう食べて良い!」と思われた方も多いでしょう。
では、タンパク質はどれくらい食べたら良いのでしょうか?
前出の日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、必要エネルギーの13~20%をタンパク質から摂取するように設定されています。
ここでは書籍「食欲人」で紹介されている方法に基づいて1日に必要なタンパク質摂取量を導き出してみましょう。
ステップ1 年齢、性別、活動量をもとに1日の必要エネルギー量(カロリー)を推定します。
「ハリス・ベネディクト法」*と呼ばれる式を使って計算します。
ステップ2 ステップ1で出した値に、次の係数を掛けます。
子ども、青少年:0,15(タンパク質比率15%の食事のこと、以下同じ)
18~30歳:0,18
妊婦、授乳婦:0,20
30歳代:0,17
40~65歳:0,15
65歳~:0,20
ステップ3 ステップ2で算出した値を4で割ると、1日に摂取すべきタンパク質のグラム数が算出されます(タンパク質1gは4kcalに相当)。
*ハリス・ベネディクト法:https://calculator.jp/health/harris-benedict/
計算できましたでしょうか?
「うぅーん、ちょっと面倒だな」
そう思われた方、安心してください。
「1日に必要なタンパク質量は60g」
これだけ覚えてもらって結構です。
ここで大切なことは、「タンパク質が60g」であって、食品の重さではないことに注意してください。
たとえば、納豆1パック45gに含まれるタンパク質は7.4gであるということです。
主な食品に含まれるタンパク質量を下表に示しました。
主食は、食パン6枚切り1枚は149kcal、タンパク質5.3g、白米一膳(150g)は234kcal、タンパク質3.8gです。
もうひつつ大切なことは、「1日に必要なタンパク質60gを朝昼夕の3度の食事に分けて食べる」ということです。
朝食に、白米一膳と納豆を食べる方は、これでタンパク質が11.2gなので、ちょっと少ないですね。
これにさばの水煮缶詰1/4缶(9.4g)、または鶏卵1個(8.5g)、豆腐やあげが入った具沢山の味噌汁でも良いでしょう、を加えると総タンパク質量は約20gになります。
タンパク質を毎食均等に摂ることのメリットは、
① 夕食に偏ってたくさん摂取した場合と比べて1日の筋肉合成が1.25倍に増加する。
② 適切なたんぱく質摂取比率が維持されることにより、適切な摂取カロリーが保たれる・・・つまりタンパク質欲が満たされることにより過食による総摂取カロリーの増加を防ぐ。
とりわけ朝食は「摂取しない」、あるいは「パンとコーヒー」または「おにぎり1個」という方が非常に多いですので、意識して食べていただくことが必要です。