熱帯雨林に増生するヤシという植物をご存知でしょう。
下の写真のような誰もが「ああ、あれか」と知っている植物です。
アブラヤシは、ヤシ科アブラヤシ属に分類される植物の総称で通称パームヤシと呼ばれます。
パームヤシからとれる植物油はパーム油。
ヤシの木はよく知っていても、このパーム油は、なたね油やごま油、オリーブ油のように馴染みのある油ではありません。
しかし、実は毎日のように私たちはパーム油を口にしているのです。
その量はなんと1年間でおよそ4kg!
日本ではなたね油に次いで消費量が多いのです。
ではなぜ私たちはその存在に気づいていないのでしょうか?
それはパーム油が「見えない油」だからです。
「見えない油」とは、加工食品の原材料に使われる油のこと。
日本人が摂取している油脂のうちなんと約75%が「見えない油」であるといわれています。
加工食品の原材料に使われる際には「パーム油」として表示されることは少なく、「植物油脂」として食品表示表に明記されています。
スーパーやコンビニエンスストアで販売される多くの食品・・・
菓子パン、インスタント麺、冷凍食品、マーガリン、カレールー、チョコレート、ポテトチップス、アイスクリーム、スナック菓子
これほどまでにパーム油が超加工食品に汎用されるのにはわけがあります。
理由1 パーム油はサラダ油より安価
理由2 使い勝手が良い
低温ではマーガリン、チョコレート、アイスクリームなどに入れると、口どけなめらかな食感になる。
常温では、ポテトチップス、カップラーメン、フライドポテトの揚げ油として使われ、酸化しにくく、サクッと仕上がる。
ではパーム油で食品を加工することは良いことずくめでしょうか?
実は問題となる点が2つあります。
一つは環境問題。
パーム油を生産するアブラヤシ農園は森林を伐採して作られます。
世界中でパーム油の消費が増大した結果、森林が驚異的なスピードで消滅しています。
もう一つは健康問題。
パーム油は植物由来であるにも関わらず構成する脂肪酸のおよそ半分が飽和脂肪酸であること。
つまりパーム油は肉の脂身である豚脂や牛脂と同じ仲間の油!
飽和脂肪酸を摂りすぎると動脈硬化症(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞)をきたしやすいことはすでにお話しました。
また、本ブログ「超加工食品と肥満・健康障害」https://www.yoshino-naika.com/blog/86297/でご紹介した「超加工食品の摂取量が10%増えるごとに、全死亡率が14%上昇する。特に、心血管疾患、生活習慣病や癌などの死亡率が高くなる」の大きな要因になると考えられます。
今一度私たちは「見えない油」について考え直す必要があるのではないでしょうか?
ココナッツ(椰子の実)はヤシ科の単子葉植物、ココヤシの果実。
ココナッツを乾燥させたものはコプラと呼ばれ、ココナッツオイルやココナッツミルクの原料になります。
ココナッツオイルは、アメリカ人の 72% が健康食品と認識し、日本では「スーパーフード」と称して市場に出廻っています。
日本最大手の食用油脂メーカーのホームページでも、「美容・健康にココナッツオイル」と記載されています。
「ココナッツオイルは南の島の椰子の実から採れる天然オイル」
このようなキャッチフレーズから多くの人に、「健康に良い不飽和脂肪酸」というイメージがすり込まれていくことになるのでしょう。
しかし実際はヤシ科植物由来のパーム油と同じ飽和脂肪酸が多く、健康に良いとされる不飽和脂肪酸は少ないのです。
それどころかココナッツオイルは心疾患の危険因子であるLDLコレステロールを上げるという研究論文も!
米国心臓病協会は「ココナッツオイルは心臓によくない」と声明を出したほどです。
ただ、牛肉・豚肉・パーム油の飽和脂肪酸は長鎖脂肪酸であるのに対し、ココナッツオイルは中鎖脂肪酸と呼ばれるものが多く含まれています。
この中鎖脂肪酸についても、「エネルギーに変わりやすい」、「代謝されやすい」、「(エネルギーに変わりやすさ・代謝されやすさは)長鎖脂肪酸と変わらない」などとよくわかっていない点が多く、今後の研究結果が待たれます。
現時点で少なくとも言えることは、ココナッツオイルを不飽和脂肪酸を多く含む油(なたね油、オリーブ油、アマニ油、えごま油)に替えて利用する程の健康増進価値は証明されていないということ。
ただし少量を、料理・デザートの隠し味としたりコーヒーに入れて風味を楽しむには、健康に影響しないばかりかとても重宝することは、ココナッツオイルの名誉のために申し添えます。