「痩せると人の性格は変わるのでしょうか?」
ある掲示板にこのような質問がよせられていました。
それに対する書き込みをのぞいてみると・・・
「明るくなった」
「何事にもやる気が湧いてきます」
「自信が持てるようになった」
「外出するのが待ち遠しい」
「何にでも前向きになった」
このようなポジティブな言葉が並んでいました。
果たしてこれはただ痩せたことに対する一時的な感情でしょうか?
実はこれには医学的な理由が存在するのです。
コロナやインフルエンザに感染すると発熱、咽頭痛、頭痛、咳などの症状に悩まされます。
この症状はウイルスがからだのあちこちに散らばり、その場所でウイルスとからだの戦いが起きたことを意味します。
病巣部にはサイトカインと総称される様々な生理活性物質が産生されて、感染が起きていることを全身に知らせます。
その結果感染した部分に血流が増え、白血球が集まってきて侵略者と戦います。
たとえばかぜを引いたときの喉の痛みを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
のどに血流が増えその部分が熱を帯び赤く腫れ上がり、神経を圧迫して痛みが生じます。
侵略者と戦った白血球の残骸が膿になります。
ちなみに熱感、発赤、腫脹、疼痛を炎症の4徴候と呼びます。
さてこんな状態になったときの私たちの気分はどうでしょう?
やる気も食欲も低下して、ふとんを被って寝ていたくなりますね。
このように気分を落ち込ませることもサイトカインの役割のひとつで、感情を使って私たちを引きこもらせ安静を保ちエネルギー消費を節約して病気との戦いに備えているのです。
ここで注目して頂きたいことは、炎症が起きるのは感染症に限ったことではないということです。
私たちの祖先が狩猟採集民であった時代の炎症は、多くが細菌やウイルスによる感染や怪我で起きて、ほとんどが一過性でした。
ところが現代ではライフスタイルの変化によって引き起こされた、喫煙、環境汚染物質、ジャンクフード、座りすぎ、肥満、精神的ストレスも炎症の要因となり、しかも長期間持続性であることが特徴的です。
スェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンは著書「ストレス脳」の中で次のように述べています。
「身体は炎症が感染によるものなのか現代のライフスタイル要因によるものなのかを見分けることができない。
同じことが脳についても言える。
現代の炎症要因でも、細菌やウイルスに攻撃されている時と同じシグナルが脳に送られてしまう。
そのシグナルが長く続きすぎると──そして現代の炎症要因というのは長期的なものだから──脳は「命が危険にさらされていて、常に攻撃を受けている!」と誤解してしまう。
そこで脳は気分を下げるという調整を行い、私たちを引きこもらせようとする。
精神的に立ち止まらせ、その状態が長く続く。(中略)
つまり私たちがうつと呼ぶ状態だ。
このように、うつも炎症に起因する病気のリストに入ってくるのだ。」
感染症や精神的なストレスと並んで、肥満は体内で炎症を起こす大きな要因となります。
内臓脂肪は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく内分泌器官でもあるため、いろいろなサイトカインが作られいて炎症も引き起こしてしまうのです。
からだは脂肪細胞を異物とみなして、退治しようとしているのかもしれませんね。
長時間座っていることや肥満に対して脳が危険を察知して、感染症のときと同様に感情を使って気分をうつ状態にさせると考えられています。
要するに肥満は炎症を引き起こし、感染症のときと同じように精神状態を悪化させ引きこもらせるのです。
しかし感染症が終息すれば・・・
元気、やる気も復活しますね。
肥満も同様です。
痩せれば炎症をおこす脂肪細胞が消失するわけですから、悪い精神状態や引きこもりから回復して、掲示板のコメントのように明るく積極的に振る舞えるようになるのも自然なことでしょう。