メトホルミンは日本を含め世界で最も使用される糖尿病治療薬の一つで、60年以上前から使われている長い歴史があります。
これだけ使われている理由はその効果と安全性によるものでしょう。
ここでは最近わかってきたメトホルミンの体重におよぼす影響ー1.2から5.6kgの減少効果(1)(2)ーについて紐解いていきます。
(1)Long-term treatment study of global standard dose metformin in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus Masato Odawara et al
(2)Effectiveness of Metformin on Weight Loss in Non-Diabetic Individuals with Obesity C. Seifarth et al
神戸大学大学院医学研究科の小川渉教授と野上宗伸准教授らの研究グループは、メトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」という作用を持つことを、世界で初めて人を対象とした研究で明らかにしました。
メトホルミンを飲んでいる患者と飲んでいない患者の体の中でブドウ糖の動きをPET-MRIという新しい放射線診断装置で調べたところ、メトホルミンを飲んでいる患者は、ブドウ糖が腸に集まることがわかったのです。
この結果は、血液の中のブドウ糖が、腸から便の中へ出て排泄されることを示していますので、メトホルミンを飲むと過剰なカロリーを除くことができ体重減少に結びつくと考えられます。
メトホルミンには小腸から分泌されるGLP-1を増やし、血液中のGLP-1分解速度を遅くする作用が知られています。
このしくみにより血液中のGLP-1濃度が上昇します。
GLP-1についてご存知でしょうか?
先日、NHKの「あしたが変わるトリセツショー」の〝「ダイエット」のトリセツ〟で取り上げられました。
GLP-1は腸から分泌される“やせホルモン”とも言われる物質で、脳の満腹中枢を刺激したり、胃の運動を緩やかにすることで満腹感を得やすくします。
メトホルミンのGLP-1を介した食欲抑制作用が、体重減少効果となってあらわれているのでしょう。
メトホルミンはAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化させます。
AMPKは、細胞のエネルギーセンサーで、エネルギー(ATP)が低下すると活性化されます。
AMKが活性化されると、エネルギーを消費する経路(糖新生や脂肪合成など)が抑制され、エネルギーを産生する経路(糖や脂肪の分解など)が促進されます。
この作用により、血糖値や体脂肪の低下という嬉しい効果をもたらしてくれます。
実はこの現象は運動すると体内で起きる変化と同様です。
つまり、メトホルミンを飲む効果は、運動することと同じ効果なのです。
更に最近の研究ではAMPKの活性化はがん細胞の増殖や代謝を阻害し、免疫細胞の活性化を促進することもわかってきました。
このことはがんの予防や治療にも有効である可能性を示唆しています。
メトホルミンの服用方法は添付文書によると次のとおりです。
メトホルミン(1錠250mg)は1日500mgより開始して、1日2~3回に分割して食直前又は食後に水で服用します。
食事の前に飲む方が効果が高いとも言われていますが、飲み忘れないようにすることが肝心です。
維持量は効果を観察しながら決めますが、1日最高投与量は2,250mgまでとされています。
メトホルミンは次の方には服用していただけません。
1) 腎機能障害患者・透析患者
2) 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など
3) 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者
4) 高齢者
上記の人が服用するとまれに重篤な乳酸アシドーシスなどの副作用を起こすことがあります。
これは体内の乳酸が増え、血液が酸性に傾く状態で、重篤な場合には命に関わることもあります。
その症状としては腹痛、嘔吐、早い呼吸、全身の倦怠感、意識障害などです。
次のことに注意しながらメトホルミンを服用すると、副作用のリスクを軽減することができます。
過度のアルコール摂取を避ける。
発熱、下痢、嘔吐、食事摂取の不良などで脱水状態になる可能性がある場合一時的に服用を中止する。
乳酸アシドーシスの初期症状が出た場合はすぐに医療機関を受診する。
腎機能障害のある高齢者の方は、メトホルミンが体内に蓄積しやすいため、特に注意が必要です。
また軽度の下痢や食欲不振などの胃腸系の副作用は、メトホルミンを服用した方の20〜30%の人が発症するといわれています。
このようなときには服用量を減らす、または一時的に休薬すると症状は良くなるといわれていますので、医師に相談するようにしましょう。